第34章『こどもライブラリー 立体モデル大図鑑 タランチュラのからだ』

第33章『外来生物法 -第2次指定種と特定外来生物の飼育許可後の手続き-』

第32章『外来生物法について -法律施行前より飼育していた個体の飼育継続許可-』

第31章『外来生物法について -その2・「未判定外来生物」と「種類名証明書の添付が必要な生物」-』

第30章『外来生物法について -その1・「特定外来生物」の種類-』

第29章『冷凍マウスの解凍法(2) - ラット篇 -』

第28章『爬虫類ライト考』

第27章『簡単な滅菌方法』

第26章『全身真っ白のヤドクガエル!』

第25章『腸内細菌のはなし』

第24章『冷凍マウスの解凍法(1)』

第23章『フローズンクリケット:冷凍コオロギの作り方』

第22章『「C.B.」と「W.C.」の表記について』

第21章『学名のはなし』

第20章『製品紹介 「フロントラインスプレー」』

第19章『爬虫類の臨床』

第18章『リクガメの駆虫について』

第17章『*ICBM(大陸間弾道ミサイル) x ヘビのヤコブソン器官』

第16章『毒ヘビ(マムシ)と間違われる無毒ヘビ達』

第15章『プローブの上手な使い方』

第14章『引っ込まなくなったヘミペニス』

第13章『ヘビには脚がある?』

第12章『ハイブリッドスネークについて』

第11章『リクガメの膀胱結石』

第10章『タランチュラの種の同定について』

第9章『タランチュラの各部位の名称』

第8章『Scorpions of the World』

第7章『Earth Tiger Tarantulas from Southeast Asia and the Pacific』

第6章『ヘビの色彩変色について』

第5章『ドイツヤドクガエルブリーダー・バーンズ氏』

第4章『ロシア・ウズベキスタンよりホルスフィールドリクガメ入荷風景』

第3章『ドイツ・オランダからのタランチュラ入荷風景』

第2章『大きいムカデ』

第1章『ムカデの子育て』

題名の上に    が引かれている章は、内容が古くなったため削除したものです。

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第21章 学名のはなし

[1] 学名とは?

 熱帯魚・爬虫両生類・タランチュラ・昆虫など…様々な生き物の飼育を行っていくうえで、必ずついて回るのが「学名」の問題でしょう。学名というのはそもそもある生物に対して付けられた学問上の名前ですから、単に飼育や繁殖だけを楽しむのであれば、本来学名についての知識などなくてもまったく問題はないはずなのです。しかし、最近の爬虫類・熱帯魚関係の書籍や雑誌では、学名が使われているのが当たり前になってきていますし、マニアの会話の中でも学名で生物の名前を呼ぶようなことがしばしば見受けられます。また、タランチュラやサソリのように、国ごとに呼び名(コモンネーム)が異なるような場合にも、学名は頻繁に用いられています(ちなみに、当社の場合、ドイツや東欧などからの輸入便も多く、アメリカ便とはコモンネームも異なることから、在庫リスト上では学名だけでタランチュラを紹介していることが少なくありません)。

 そもそも学名とは、いったいどのようなものなのでしょうか?
 例えば、「イヌ」という生物について考えてみましょう。「イヌ」の呼び名は日本語では「イヌ」ですが、英語では"dog"、ドイツ語では"Hund"、フランス語では"chien"…といったように、使用する言語によって呼び名は千差万別です。しかし、これでは言葉が違うとどんな生物を指しているのかも分からず、母国語を異にする研究者同士での交流も難しくなってしまいます。そこで、1つ1つの生物(種)について、生物学上の万国共通の呼び名として用いられているのが学名というものです。先ほど例に挙げた「イヌ」という生物を学名で表せば、"Canis familiaris"となり、これはどこの国の研究者の間でも通用する呼び名ということになるのです。
 当然1つの生物(種)に対して付けられている学名は、この世にたった1つしか存在していません。つまり、「イヌ」の学名は"Canis familiaris"であって、それ以外のどんな学名も認められていないわけです。同様に、ヒョウモントカゲモドキやコーンスネーク、ベルツノガエルの場合なら、Eublepharis macularius、Elaphe guttata、Ceratophrys ornataがそれぞれ唯一の学名ということになります。
 学名ではラテン語(またはラテン語化された言葉)が用いられ、種を表す学名はふつう2語からなります。例えば、イヌの学名であるCanis familiarisなら、Canisという語とfamiliarisという語の2つから成り立っていることになります。このうち最初のCanisを属名といい、必ず大文字で書き始めます。一方、後半のfamiliarisを種小名と呼び、こちらはすべて小文字でつづります。まれに3語からなる学名を見かけることもあるかもしれません。例えば、Boa constrictor amaraliやBoa constrictor imperatorといったパターンがそれです。この場合、3つめのamaraliやimperatorは、亜種の名前を表しています。なお、人の手によって人為的に作出された「品種」は、分類学上の単位として認められていないため、学名で呼ぶことはできません。柴犬もマルチーズもコーギーも、すべて生物学的には同一の種、つまり"Canis familiaris"ということになるのです。

[2] 学名の読み方

 爬虫類や両生類の場合なら、和名やコモンネーム(ふつう英名)がある程度定着しているため、よほど珍しいものでない限り、学名にこだわらなくても実際に困ることはほとんどないはずです。しかし、タランチュラやサソリのように、和名がなかったり、コモンネームも国によって(あるいは輸出業者や極端な場合は便ごとに)まちまちであることが多いものについては、やはり学名の読み方についてある程度知っておくほうが何かと便利です。今回は、学名に関するごく基本的な知識のうち、「学名の読み方」についてお話してみたいと思います。特に「学名の読み方」については、「これまで読み方が分からないがために、タランチュラやサソリの注文をためらっていた…」という方にとっても、参考になるものではないかと思われます。

 結論から言ってしまえば、学名の読み方について、これが絶対に正しいというものは存在しません。「学名のはなし@」で触れたように、学名はラテン語(またはラテン語化された言葉)で表記されるものです。このラテン語というのは、そもそも古代のローマ帝国で使われていた言葉(しかも、口語ではなく主に文語として)で、現在ではいわば「古典語」の部類に属します。もちろん古典語であるラテン語にも正しい発音のルールというものは存在していますが、こと生物学の分野ではこれがそれほど厳密に適用されているわけではないのです。
 外国でも、学名が厳密なラテン語の発音の仕方で読まれることはむしろ少なく、自国語式の読み方で発音されるのがふつうです。つまり、アメリカやイギリスなら英語式に、ドイツではドイツ語式に…といった具合です。一方、日本ではローマ字式に読むか、英語式に発音するかのどちらかであることが多いようです。例えば、Brachypelma vagansというタランチュラの学名は、厳密なラテン語の発音では「ブラキュペールマ・ワガンス」となるはずですが、国内では「ブラキペルマ・ヴァガンス」と発音するのが一般的です。
 このBrachypelma vagansの場合は、ローマ字式と英語式のいずれの読み方でも「ブラキペルマ・ヴァガンス」となりますが、ローマ字読みと英語読みとで発音が微妙に違ってくるケースもあります。その例を以下にいくつか挙げておきますが、それらの場合でも「必ずこう読まなければいけない」という厳格なルールはないため、結局は自分の読みやすいように発音して構わないということになります。

(a) 種小名が特定の人物に献名されている場合:
 種小名に人名が含まれる場合、その人名の原音に近い読み方を好んでする場合があります。例えば、Brachypelma smithiは、そのままローマ字式に読めば「ブラキペルマ・スミティ」ですが、種小名があくまでSmith(スミス)という人物の名前にちなんでいるため、「ブラキペルマ・スミシィ(またはスミスィ)」と読まれることがあるわけです。また、Brachypelma boehmeiの場合、もちろん「ブラキペルマ・ボエメイ」と読んでも一向に差し支えないのですが、やはり種小名がBöhme(ベーメ)というドイツ人にちなむことから、「ブラキペルマ・ベーメィ」と読まれることも少なくありません。同様に、Psalmopoeus cambridgeiなら「プサルモポエウス・ケンブリッジィ」、Haplopelma shmidtiなら「ハプロペルマ・シュミッティ」…といった読み方もできるわけです。

(b) "tha"、"thu"、"tho"の発音:
 それぞれローマ字式に「タ」・「ツ」(または「トゥ」)・「ト」と読んでも、英語式に「サ」・「ス」・「ソ」と読んでも、どちらでも構いません。Acanthoscurriaなら、ローマ字式に「アカントスクリア」か、英語式に「アカンソスクリア」となります。なお、"thi"と"the"は、ローマ字式・英語式のどちらの場合でも、「チ」(または「ティ」)・「テ」と読まれます。Theraphosaを「テラフォサ」と読むのがその例です。

(c) 語末の"us"、"um"の発音:
 語末につく"us"は、ローマ字式なら「ウス」とそのまま読みますが、英語式では「アス」となることがふつうです。また、語末の"um"はローマ字式では「ウム」、英語式では「アム」と読まれることが多いようです。例えば、Parabuthus transvaalicusなら、ローマ字式に「パラブトゥス・トランスヴァーリクス」と読むか、英語式に「パラブサス・トランスヴァーリカス」となります。

(d) "c"の発音:
 "c"の発音は、ラテン語では本来「カ・キ・ク・ケ・コ」の音で読むものですが、英語風に「サ・シ・ス・セ・ソ」の音で読んでも構いません。例えば、Centruroides gracilisは、ラテン語読みなら「ケントルロイデス・グラキリス」、英語式なら「セントルロイデス・グラシリス」といった感じです。ただし、"ch"の場合は、「カ・キ・ク・ケ・コ」の音で読まれるのが一般的です(Chromatopelma「クロマトペルマ」、Chilobrachys「キロブラキス」など)。

(e) "x"の発音:
 もともとラテン語では「クサ・クシ・クス・クセ・クソ」(または「キサ・キシ・キス・キセ・キソ」)と発音しますが、英語式に「ザ・ジ・ズ・ゼ・ゾ」と読んでも構いません。近年輸入されるようになったカワリアガマの学名Xenagamaは、ラテン語読みなら「クセナガマ」、英語式なら「ゼナガマ」となります。タランチュラでもXenesthisという属名がありますが、これはラテン語式に「クセネスティス」と読むか、英語式に「ゼネスティス」と読むのがふつうです。

(f) "eu"の発音:
 ローマ字式では「エウ」と発音しますが、英語式に「ユー」と読むこともできます。つまり、Euathlusなら、ローマ字読みで「エウアトルス」、英語読みで「ユーアスラス」といった具合です。

(g) "ph"の発音:
 ローマ字式・英語式のどちらの場合でも、「ファ・フィ・フ・フェ・フォ」と読みます。Pamphobeteusは「パンフォベテウス」(または「パンフォベテアス」)となるわけです。

(h) "pseudo"、"opist(h)o"などの発音:
 ローマ字式にそれぞれ「プセウド」、「オピスト」と読んで構いませんが、英語式では「シュード」(または「スード」)、「オピソ」と発音されます。サソリの属名でOpistophthalmusというのがありますが、これはふつうローマ字式に「オピストフタルムス」とするか、英語式に「オピソフサルマス」と読まれるわけです。また、英語式の場合、例えばPsalmopoeusでも「サルモポエアス」と、語頭の"p"を発音しないケースがあります。

 学名と聞くとヘンに身構えてしまう人も多いかもしれませんが、ローマ字式にせよ、英語式にせよ、要は自分の読みやすい読み方で発音すればいいわけです。語学の勉強ではないのですから、これからは難しく考えずに、気軽な気持ちで学名に接してみてください。